今日会社をサボっていることを、妻には言っていない。
何食わぬ顔で駅で別れて、仕事に行くふりをして、すぐに帰りの電車に乗った。
なんで隠すのだろう。
妻を心配させたくない?
会社に行っていないのは、心配をかけるようなことなのか?
死んだ顔をして働いて、体を壊した方が心配をかけるようなことなんじゃないのか。
でも、言い出せない。妻の前では会社に行きたくない、という弱さを見せたくない。
自分は弱いのか?
むしろ、行きたくないから行かない、という決断をできる自分は強いのではないか。
都合よく考えすぎか。
会社に行っていないと妻に伝えて、なんと言って欲しいのか。
大丈夫?
大丈夫だから休みなよ?
すごいね?
自分を慰めるような言葉しか期待していないじゃないか。
そうか。
会社に行っていないことを妻に伝えて、会社に行っていない自分を肯定してもらう、そんな自己中心的な考え方が自分は嫌だったのか。
それは良い。真っ当だ。
でも、嘘をつくのは良くないんじゃないか?
やっぱり、正直に言うべきなんじゃないか?
いや、正直でいることがそんなに大切か?
ついていい嘘もあるんじゃないか。なにもリストラされた訳じゃない。会社をサボっただけで、生活には何の支障もない。
自分が嘘をついている罪悪感から解放されたいがために、妻を不安にさせるのはおかしい。「俺、言ったからね」と自分の行動の責任を妻にも負わせようとしているだけだ。
やはり黙っていよう。この選択が正しいかはわからないが、少なくとも自分の責任の範疇に収まる。
いつか「実はあのとき会社に言っていなかったんだよね」とサラッと伝えて「さすがだね」と言ってもらえばいい。
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